台風18号・19号と“スーパー台風”が一週間以内に立て続けに日本列島に上陸・縦断しました。結局、強力な前線ブロックによって上陸の前日まで多くのポイントでライダブルとなり、大クローズアウトとなったのはいずれの台風も通過後でした。
18号は週末までの3日間、19号は三連休を入れた5日間も、多くのポイントで大勢のサーファーがサーフィンを楽しめたのではないでしょうか。
台風18号が過ぎ去った翌日、「Blue Sea&Greenland(B&G)財団」の依頼で、関東のB&Gの施設に勤めるアウトドアスポーツの指導員や管理者の皆さまに向けて、『異常気象だからこそ事故防止を図る』とのタイトルでお話をさせて頂きました。
結論として強調したのは、世界最高レベルの気象庁の予報であっても、予報は予報であり、完全ではないということです。気象予報には、想定外と思われる突発的な気象現象が起きる要素が、実はきちんと気象用語の中に謳(うた)われていることを強調しました。
例えば、3時間以内の降水確率が90%であっても、3時間以内に1分でも雨が降れば100%であること。言い換えれば、2時間59分の間、晴れていても当たっているということです。
また、平均風速は10分間の平均ながら、最大瞬間風速は3秒間の平均であり、平均風速の1.5~2倍近い風速になることを意味します。分かりやすく言えば、20m/sの平均風速ならば、トラックが横転しかねない40m/s近い暴風となる可能性があります。
また、通常の波の高さは有義波高というもので表されますが、100波の大きい方から30波の平均値を意味していて、頻繁に起こる波は有義波高の0.54倍くらいであるのに対し、100波に1回は1.6倍、1000波に1回は1.9倍の最大波が押し寄せるということを説明しました。わずか50cmの波とTVやラジオなどのメディアでアナウンスされて親が安心していても、身体に対して頭が大きくてバランスの悪い幼児においては、1000波に1回の100cm(1m)近いお化けセットに襲われれば、波に簡単に足元をさらわれ、さらには逆潜流(波の底から沖に向かう危険な流れ)によって海底に引き込まれてしまいます。
このような異常な気象現象が伴うのが自然であり、また海です。サーファーならば、1000波に1回くらい襲ってくる“クリーンナップセット”、いわゆるウェイティングしていたサーファー全員が、突然アウトから襲ってくる一発大波を食らってインサイドまで運ばれた(掃除された)経験は一度や二度ではないはずです。
自然に想定外はつきものだとは考えずに、少しでも頭の片隅に万が一の出来事を想定内とする準備と心掛けがあれば、事故は未然に防げることが多々あります。
今回の台風19号について、『な~んだ、結局大したことなかったじゃないかぁ!!』と気象庁やメディア、そして大波予想を外した波伝説の気象予報士らを批判する人がいます。私は、こうした批判には耳を傾けませんし、事故防止を図る側のひとりとして、そうした意見は慎んで頂ければと思います。決して自分たちを庇(かば)う訳ではありません。もしも概況・予想データが少なく見積もられ、台風が上陸・接近となった時に避難できないような猛烈な暴風雨となった際では、時すでに遅し!!なはずです。お年寄りや乳児を連れた家族は、ただ家の中で怯えて過ごすことでしょう。サーフィンに例えれば、サイズが急激に2倍3倍にアップした時には、多くのサーファーの命にかかわります。ジェリー・ロペス氏も、『サーフィンしたら、必ず家に帰ってくること』と述べられ、命をかけてサーフィンをしてはいけないと訴えています。
台風の上陸に際して、結果的に災害や事故が起きなかった時には、皆で神さまに感謝する文化こそ、4つのプレート、4つの気団に囲まれて、災害とは切っても切れない関係にある日本人の先祖から受け継がれた大切なDNAだと思います。
波伝説ライダーの大野修聖プロは、サーフィンの前後に、必ず海に向かって感謝のお祈りを奉(ささ)げます。彼のようなトッププロでさえ、いつも自然への感謝と謙虚さを大切にしています。
刻々と変貌する大自然の海の中で遊ばせて頂いている我々サーファーは、自然と海に常に感謝し、謙虚でもなければならないし、万一の変化を少しでも早く察知して危険を回避し、少々の暴風や大波になっても帰ってこられる体力を日ごろから鍛えておかねばならないと思います。(了)